プロフィール

とめきち

Author:とめきち
2013年夏カカイルにはまった新米カカイラーです。
煩悩のまま駄文を書き散らしております。

ギャグとシリアスが混沌としております。
闇鍋みたいなサイトです。

本人は読むのは雑食です。
書くのはカカイルメインでちょっこっと捧げ物でライアオ書いてます。
こちらはカカイルサイトなのでそちらはUPしてません。

溺愛するポケモンはラプラスと使いやすさでコバルオン。
お稲荷さんと聞くと変態仮面が真っ先に思い浮かびます。
意外と手先が器用です。

基本的にギャグのカカシ先生はイルカ先生の話をキチンと聞いてませんし変態です。
イルカ先生は基本ツッコミです。

現パロのリゾートシリーズは基本カカイルですが色々なキャラが出てます。
っていうか最近そっちがメインな気もします・・・。

高校生シリーズは一旦完結しましたがたまに番外編で出てきてます。

リンクフリーです。
報告とかしてもらっちゃったら即効お邪魔します。
相互とかさせていただいちゃったりしたら喜んで話の一本でも書かせていただいて手土産にお邪魔いたします(笑)

ではへっぽこで珍妙で拙い文ではありますが宜しければお楽しみいただければ幸いです。

カウンター

キリ番はしばらくお休み中です

カテゴリ

最新記事

月別アーカイブ

検索フォーム

「陰の影」   【完売本より】


カカシ先生、お誕生おめでとうございます

完売本より(発行2015、02、01)

全体的に薄暗い感じの話で、モブ視点の話から最後の方でイルカ視点の話に切り替わります。
カカイルですが、モブから見たカカシの話の比率が多いです。
バッドエンドではないですが、メリバっぽい薄暗い感じの話になります。

表紙は『芋酒735様』が素敵なイラストを書いてくださいましたのを今回も使わせていただきます。

この話は私がこのサイトを始める際に思い付いた話の三つのうちの一つで、元々はサイトの最後の時に書くつもりの話でした。
ですが原作が終わり、カカシ先生の写輪眼についても色々とあった為、迷いましたが最終回の記念として書いた話です。
頭の中で考えていた時はもう少し簡単な話のつもりでしたが、予想していたよりも少し複雑で少し長くなりました。
好みの別れる話かと思いますが、自分の中で区切りになった話でした。

夏コミは新刊が無かったためこちらでは特に告知していなかったのですが、スペースまで来てくださいました皆様、ありがとうございます。
スパークですが、別ジャンルでの参加になります。その次の週の大阪全忍で「もふもふ会」が参加することになっており、私は委託で新刊をお願いする予定です。
近くなりましたらまた告知させていただくかと思いますのでよろしくお願いいたします。

少し長い話ですが、良ければ追記よりどうぞ・・・・・・。






 [陰の影]


 「写輪眼」「ビンゴブックの常連」「千の技を持つ男」

 

 その男の事を表す二つ名は数知れぬほどある。

 

 だがしょせん結局そんな高名な男がやっている事は、里が秘密裏に請け負っている血なまぐさく後ろ暗い、所謂「陰の仕事」だ。


 その男の名は『はたけカカシ』


 表では華やかな二つ名を背負いながら、裏では里の陰の部分を背負っている。

 



  ・・・ではそんな里の陰である『はたけカカシ』のさらに影である俺は・・・一体何者なんだろうか?





 俺がその男の影として過ごすようになったのは、一体、何時の頃からだっただろう?
 その男の・・・カカシの影として生きるために、己の名をそれまでの人生を捨ててしまった俺は、もうその事すら良く覚えていない。
 だが確か彼がビンゴブックに載るほどに、名が売れすぎてしまった頃だったような気がする。


      忍ぶ者と書いて『忍者』。


 彼は、それよりも更に忍んだ存在の『暗殺戦術特殊部隊』通称暗部に属していたのだが、その存在は全く忍んでではいなかった。
 わずか六歳にして中忍になっただけではなく、その珍しい髪色や木ノ葉の白い牙と謳われた父親の事等、元々の存在自体が目立つ要素を多数備えていた。
 しかもそれに加え、左眼に入っている今は亡き友から譲り受けたうちは一族の秘宝と言える写輪眼の存在がさらに拍車をかけ、その名を他里まで広めることとなった。
 譲られた写輪眼を自分の眼として使いこなし、千もの技を持つ忍としてビンゴブックにも載るほどの実力を持ち、色々な意味で有名な彼に憧れるものは男女問わず少なく無く、どうにかして彼に近づこうとする者も後を絶たなかった。

 カカシは自分に群がる崇拝者達には冷酷で淡々とした態度で接し、無用な関わりを避けていた。

 感情を表に出さず、どんな非道な仕事でも眉一つ動かさずこなしていくカカシ。人としての心が無いんじゃないかとも、心が凍りついているからあんなひどい任務でも何の感情もあらわさずに出来るんだとも、陰では囁かれていた。
 仕事で組んでも最低限の会話や指示しか出さないカカシは腕は確かだったが、協調性が無く組み辛い相手でもあった。
 それでも蜜に群がる虫の様に次から次へとやってくる人々に嫌気がさしたのか、いつの間にかカカシは必要な時以外は姿を現さなくなっていた。

 今まで暗部として活躍し、里の陰の資金源である血なまぐさい裏の仕事の大部分を一手に引き受けてきたカカシ。

 そんなカカシを暗部から引退させ、写輪眼を使って得た豊富な知識で次世代の忍を育成する上忍師として表舞台に立たせよう。と三代目火影であるヒルゼン様がその話を持ち出した時にはひと騒動が起きた。
 簡単な任務をこなしつつ、今までと違う光の当たる場所で若手を育成する上忍師として、ゆっくりと過ごして欲しいという三代目。
 それに対し、暗殺関係の実入りのいい仕事だって引き受けにくくなり里の収入も減るだろう。里の今後の事を考えるならば今までの様に暗部としてそのまま過ごさせるべきだと反対する上層部達と。

 上層部の言い分は、こうだった。

 表舞台に出るとなると、恐らく高名な写輪眼を使っての任務が増えることだろう。今だって任務の後にチャクラ切れを起こし入院する事が多いも増えるんじゃないだろうか?あれだけ名の知れた男なんだから、隠していてもどうしても噂になるだろう。医療技術の発達している木の葉の里がそんな事では評判も落ちるだろうし、写輪眼の評判も落ち、依頼も減り里の更にカカシのいない隙をついて他里に奇襲されたりしたらどうするんだ?

 今や任務に出る事が無く、机上の答弁を並べてくる上層部達の考えそうな馬鹿な事だ。

 はたけカカシのその名は、他里に対しては多少の抑制力になるであろうが、里が襲われる時はそんなこと関係無く一気に来るだろう。
 そこにたとえカカシがいたからと言って、彼の力で里全体を守り切れる訳では無い。

 傍で聞いていれば馬鹿馬鹿しい考えだと鼻で笑えるが、年を取って頭が固くなるとそうはいかないらしかった。

 三代目と上層部、その話し合いはお互いに一歩も引かないまま延々と続き、平行線をたどる一方だったらしい。
 最終的に上層部が妥協案として提示してきたのが『はたけカカシを上忍師として里に置くならば、万が一の事態を考えて影武者を用意する』というものだった。
 通常は、はたけカカシが上忍師としてそのまま表舞台での生活を送るが、彼が裏の仕事を引き受ける時やチャクラ切れで入院している時は影武者をはたけカカシとして過ごさせる。
 そうすれば通常依頼される任務をこなしつつ、今までの様にこっそりと裏の任務を受ける事も出来る。
 三代目に一度は却下されたその案は、色々と揉めながらも細部をお互いに妥協することで渋々ながら採用された。
 幼少時代よりカカシは父親の事があるからか、周囲と深くかかわり合いを持とうとしなかったらしい。
 それに加えて暗部時代の人付き合いの悪さは上層部も聞き知っていたらしく、そんな彼だからこそ影武者を立ててもばれないだろうと思い立ち、そんな計画を立てたのだろう。

 幾度も話し合いを重ね、影武者はその任務故急に居なくなっても不思議ではない暗部の中から選ばれることとなった。

 俺は元々、カカシと同じ頃から暗部に所属しており、それに加えてカカシと背格好が似ていた。
 そして何よりの決め手となったのは、俺の目の色が彼の眼の色と似ているという事と、チャクラの質が良く似ているという事だった。
 更に受けていた任務の内容は違えども、暗部の中で似た様な時間を過ごしていた俺ならば、カカシの生きざまを覚え込みやすいのではないかと白羽の矢が立った。上層部の前に引き出され、この計画についての話を聞かされた時には馬鹿馬鹿しい話だと笑い出したくなったが、忍びと言う名の里の駒として存在している俺には、断る事など最初から選択肢として存在していなかった。
 この話が持ち上がって間もなく、俺は帰還不可能だろうと言うS級の部隊に組み込まれた。
 恐らくその任務に失敗し死亡したことにされ、その存在を暗部の中から抹消されてしまったのだろう。
 任務を受けた事にされ連れてこられた病院には、俺だけではなく同時に同じ任務を受けたとされる他の見知った暗部も何人かいたが、いつの間にか姿を見かけなくなった。
 カカシとして造られていくその中で、俺は体の内外に様々な加工を施され秘術や禁術と言われる術を試され、数えきれぬほどの手術を受けた。
 恐らく見かけなくなった彼らはその段階で命を落としたのかもしれないし、そうじゃなかったのかもしれない。

 彼らがどうなったのか・・・俺には分からないし、知る由もない。
 ただ一つ分かっているの、最終的にはたけカカシの影武者として造り上げられ、選ばれたのはこの俺だったという事だけだ。

     ***** 

 完成された影として上層部の前に引き出され、一糸も纏わない姿を晒した時、自分がまるで見世物の動物か人形にでもなったような気がした。
 奴らはずっと欲しかった玩具を手に入れた子供の様に、嬉しげにぐるぐるとまわりながら全身をくまなく見て回った。カカシの目の傷とそっくり同じようにつけられた傷、髪、口の中まで全身視姦するかのようにくまなく観察し終えると、俺を連れてきた白衣の男を取り囲んだ。男が手にした資料を見つつ俺についての詳しい説明を聞きながら、時折ちらちらとこちらに視線を向けてきた。

「これで写輪眼があれば完璧じゃないんですか?」
「まあ、普段の任務には目を隠していれば、こちらでも十分通用するでしょう」
「しかし雷切が使えないのは惜しいですな。それがあればさらに本物と相違ないでしょうが」
「まあ、護衛等の任務でしたら特に問題は無さそうじゃないですか」
「良くここまで作り上げましたね」

 上層部の連中の口から出た言葉に、少し嬉しそうな顔をしながら深々とお辞儀をしてみせると、白衣の男は淡々と話を始めた。

「写輪眼の有無を除けば外見はほぼ完璧とも言えます。ですが実は本人とは、チャクラの質がごくごく僅かですが異なります」
「ほほう。だったらもう少し何かを新薬でも試してみれば、何とかなったのではないのか?」
「その点に関してですが、何度も薬や禁術を試しておりまして、これ以上実験を続けると、人格等の破壊につながる恐れがある為、念のために中止にしました。もしも『これ』が壊れてしまった場合、もう一度ここまでの者を一から作り直すとなると、莫大な手間と資金がかかってしまいます」

 医療班の男は『これ』と言いながら俺の事を指差してきた。まあ元より人間扱いはされていなかったが『これ』とか『壊れる』とか『作り直す』とか・・・。せめて少しくらい言葉を選んでくれないかと思ったが考えるだけ無駄だろう。

「ですが元々のチャクラの質がカカシと似ていた為に随分と似せる事が出来、余程近しい者でも無い限り恐らく気付く事は無いだろうとの事です」
「サクモもミナトも亡き今、三代目はこの計画を承認の上だから除外出来るとして・・・。他にカカシに近しい者はどれ位居るのだ?」
「ああ、その点でしたら特に問題ないと思われます」

 白衣を着た男は手元のボードに挟んだ資料を見ながらスラスラと答えている。

「元々他人とのむやみな接触を嫌っていたようで、親しいと言えるような人間は暗部内にも里内でも、今は居ないでしょうし、仮にばれたとしても任務でチャクラの質を一時的に変えたとでも言えば十分に誤魔化せる範囲内でしょう」
「そう言えば本物のカカシはどうしたんですか?」
「ああ、さっきまで居たんだがな『アンタ達の悪趣味にそこまで付き合う気は無いですから。俺の影武者とやらはどこかで見ていますから、それで満足ですか?』などと可愛げの無い事を言って、そのままどこかに行ってしまったよ」
「そうなんですか、残念です。折角ですから本人と対面させ、どんな反応をするのか見たかったんですが」

 にやにやと笑う奴らを、まだ見慣れない銀髪越しに見ながらぼんやりと考えた。

 カカシは今何処かで俺の事を見ているんだろうか?
 鏡に映ったかの様に、自分にそっくりな俺の姿を見た時、はたけカカシは内心どう思ったんだろう?
 
 胸糞悪いとか、悪趣味だとか・・・

 だが、どう思おうとも・・・俺もカカシも、しょせん里の駒なのだ。
 しいて言えば、俺達のような捨て駒と違い、彼は飾り立てられた里の看板にもなるような貴重な駒で、万が一のことを考え良く似た替えの駒を用意されただけなのだ。
 その後も話は続いたが、結局カカシが俺の前に現れる事は無かった。

 そうして俺は はたけカカシの影 となった。

 影を造り上げたからと言って、上層部はすぐにカカシを上忍師にと認めた訳では無かった。

念には念を入れ、カカシ宛に来た依頼のなかで写輪眼の必要がなく、万が一バレても誤魔化が効くような任務を選んでは、俺に任かせてしばらくの間は様子を見ていた。
 最初のうちは面を被っていてもバレるのではないかと恐々こなしていた任務も、カカシとして感謝される回を重ねるごとに慣れてきた。  
 むしろ今までの、捨て駒に近い血まみれになる依頼をこなしていたころに比べると大名の奥方の護衛や留守の間の監視等、昔受けていた任務と比べると楽なものが多く、今までとは天と地ほどの差があった。
 そしてついに、彼が上忍師として就く事となった後は、更に楽な日々を送るようになった。

 上忍師として過ごすと言っても、カカシの最初のテストで下忍達は全て篩い落とされていた。
 他の上忍師たちが部下を取り技を教え過ごしている時、カカシは空いた時間に任務を入れ黙々とそれをこなしていた。

 俺はと言えば帰ってきた時に彼が書いた任務報告書を読み頭の中に叩き込み、カカシがチャクラ切れで入院している時には、自分の財力を自慢したい大名の護衛などの依頼を受ける。
 その他にする事と言えば、花街に行って、羽振り良く大金を落として派手に遊び歩くこと。
 はたけカカシここに在りという事と、里がそれだけ羽振りが良いという事を示す為であるから、遊ぶ金は里が支払うし、金に糸目をつけるなと上層部から言われていた
。 俺はその言葉通り、金の事は気にせずに花街で女を買い、抱き、様々な浮名を流した。毎日血まみれで戦場を駆け回っていたのが嘘のようだった

こんな楽な人生で良いのだろうか?そんな事を考え、女を抱きながら時折笑い出したくなることもあった。

 それに比べてカカシはそんな俺とは対照的な生活を送っていた。
 表の依頼も裏の後ろ暗い依頼もただ淡々とこなし、時折同期であるマイトガイの勝負を受けるだけの生活。
 任務でボロボロになりチャクラ切れで入院しているその間は、俺に取って代わられ遊びまわられている。

 可哀そうな『はたけカカシ』

 彼は恐らく性行為をした事すらないだろう。
 少なくとも俺が彼の影となってからはそう言った行為は見られないし、上層部経由で渡される任務報告書にそう言った記載も一切ない。
 それなのに彼は影武者である俺のせいで稀代の遊び人だと思われている。
 色事に関する様々な噂をまき散らされているのに、それに対して冷やかされたり嘲笑されても否定も肯定もしない。
 里に良い様に使われているのに刃向う事もせず、機械の様に感情を表さず生きている彼に、俺は寧ろ同情の念すら抱いていた。

     *****


 そんな彼の生活が一変したのは、九尾の器であるうずまきナルトの上忍師になり、その事が縁である男と知り合ってからだった。

 その男の名は『うみのイルカ』

 うずまきナルトのアカデミーの担任であり、忌み嫌われているナルトと先生と生徒と言う枠を超え、家族の様に付き合っている男だった。 うみのイルカはカカシの色事の噂を知ってか知らずか、他の奴らに対するのと変わらない態度でカカシと接していた。
 感情を表に出さずに淡々と接するカカシと、表情豊かで賑やかなイルカは対照的だった。
 元生徒の事が気になるのか、カカシを見かけると走り寄っては話しかける。カカシ自身も現部下たちの元担任だからという事で、無下にし辛いのか。他の奴らに対する態度よりも少しだけ、柔らかい態度で接しているように最初は思えた。
 傍から見れば分かり辛かったろうが、長年影としてカカシの事を見続けてきた俺には、カカシがうみのイルカに徐々に惹かれていく様子が手に取る様に分かった。

 例えるならば、日向に置かれた氷がその温かさにゆっくりと溶かされていくように、カカシの凍りついていると称されていた心は、イルカによってゆっくりと溶かされていったらしい。

 今まで誰にも心開かず、どんな美女に言い寄られても色事にも関わらず過ごしてきたカカシ。そんな彼が初めて心惹かれたのはどこにでもいる様な平凡で無骨な中忍の男。
 色香を漂わせ、誘いをかけてくる美麗のくの一ではなく、どこにでもいそうなもっさりしてガチガチに生真面目そうな男に惹かれるなんて・・・。
 それに気が付いた時には、隠れて見ていたにもかかわらず思わず大声で笑い出しそうになった。
 そしてその後もイルカに惹かれていくカカシの事を、俺はただじっと見ていた。

 ある日の事だった。カカシはチャクラ切れで入院し、俺は何時もの様に七班を率いて簡単な任務をこなしていた。生徒達に俺の事は気付かれていないが油断は禁物の為、放任主義を装い距離を取りつつ任務は無事に終了した。
 解散の号令をかけ背を向け歩き出すと、後ろからナルトとサスケが小競り合いする声とサクラの仲介に入る声が響いてきた。
 報告書を出しに受付へ向うと、夕方の一番混む時間だった。めんどうくさいから一度で直そうかと踵を返そうとした途端、列をなす人ごみの隙間から、時折ぴょこぴょこと特徴のある髪型が見え隠れしていた。
 今までカカシと一緒にいる姿を見かける事はあったが、俺とイルカとは直接接触する機会は無かった。
 後から思えばカカシがわざとそう言った機会を作らないようにしていたんだろう。
 それはちょっとした好奇心だった。
 あのカカシが初めて恋をした相手とはどんな人物なのか?俺は彼の前に伸びる列に並びじっと順番を待った。

「お疲れ様です。報告書お預かりしますね」

 賑わう受付内で彼の教師らしいよく通る声が響き、耳へと届く。
 どこか耳に心地よく響くその声を聞いているうちにどんどんと列は短くなっていき、ハッと気付くといつの間にか俺の前には少し不思議そうな顔で俺を見上げる彼の姿があった。

「お待たせしました。任務お疲れ様でした。報告書お預かりします・・・カカシさん?」
「すみません、ちょっとボーっとしてました。報告書お願いします」

 慌てて報告書を渡したその時、一瞬俺の指先と彼の指先が触れた。その瞬間、彼は一瞬驚いた顔で俺の顔を見つめたが、すぐ何事もなかったかのように話しだした。

「お疲れのご様子ですが、今日もアイツら何か仕出かしたんですか?」
「まあ、何時もの通りです。相変わらずですよ」

 そんな話をしていると、書類をチェックし終えたらしい彼はこちらを見上げながらさり気なく問いかけてきた。

「・・・あの、失礼ですが。カカシさん、今日どこか・・・雰囲気がって言えばいいのか・・・なんて言うかどこかが違いますね」

 思わずぎくりとする。今まで誰も気付かなかった二人のホンの僅かな違いをこの人は気付いたというのだろうか?!
 只の偶然だろう、と自分に言い聞かせながらわざとらしく頭を掻きつつ顔を近づけた。

「実は、その・・・。昨日受けた大きな声では言えない依頼の関係で、そのちょっと色々あったんです。じきに戻りますのでそっとしていて貰えますか?」
「ああ、そうなんですね。すいません、余計な事言っちゃいましたね」

 顔を寄せてそう囁くと、イルカも俺の言葉に慌てて小さな声で答えると、照れたように鼻傷を掻いている。

「何か良く似ているけどどこか違う感じがしてしまって、一瞬別の人みたいに感じちゃいました。すみません。では、記入漏れ等特にありませんので、これで結構です」 

 俺にしか聞こえない位の声で小さく話しながら、彼は素早く書類をチェックし小気味い音を立てて判を押していく。

「任務お疲れ様でした。」

 最後にもう一度全体に目を通すと、俺に向かってにかっと笑って見せた。

「ん~じゃあまた」

 ・・・イルカにはなぜわかったのだろうか?きっと偶然だろう。そう思いながらも気になってしまって仕方がない。

 出来る事ならもう少し詳しく話を聞いてみたいと思いながら、イルカと接触する機会はなかなか得られず、何処かもやもやした気持ちは俺の心の奥底に、澱の様にじんわりと溜まっていった。

     *****

 その日はカカシは急な裏の依頼が入り、七班との任務後から里外に出ていた。久しぶりにカカシとして表に出た俺は、上層部に言われ花街へ向かい遊び歩いていた。ただ、花街に行ったは良いが女を抱く気にはなれず、ただひたすら飲んで派手に金をばらまいていた。
 花街を出る頃には少しふらつくほどに酔いが回り、日付が変わった深い眠りに包まれている里は時折強い風が吹きぬけていく位で、密やかに静まり返っていた。
 今日は新月で余計な光が無い為かいつもよりも余計に光り輝いている星を眺めながらふらふらと歩いていると、少し先を尻尾の様な髪を揺らしながら歩く男の姿が見えた。

 ・・・ああ、あれはうみのイルカだ。

 恐らく深夜の受付勤務を終え帰宅途中なのだろう。後ろに俺がいる事に気づきもせず、トレードマークの尻尾の様な髪を左右に揺らしながら、スタスタと歩いていく。
 この距離であれば、少し足を速めればすぐに追いつくだろう。

 これは又とないチャンスだ!

 少し酔いのまわった頭でふとそんな事を思うと同時に、澱の様に心の奥底に沈んでいた思いがふわふわと浮き上がってきた。
 今まで誰にもわからなかったのに、何でイルカには俺とカカシの区別がついたのか?それを俺は彼の口から聞いてみたかった。

 少しずつ歩みを早めて距離を縮めていく。

 街灯の光で長く伸びる彼の影に追い付きそうになったその瞬間、俺は横殴りの突風に体を攫われ、たたらを踏んだ。
 風の勢いで額当てが飛びそうになったのを何とか掴み取る。傾いた体勢を立て直した俺の目の前には・・・。

 そこには写輪眼を露わにしたはたけカカシが立っていた。

     *****

 はたけカカシが俺に直接接触してきたのは初めての事だった。
  カカシはただそこに立っているように見えるのに、何と言うか気迫の様なモノが突き刺さる様に感じられ、ゾワリとした寒気と共に酔いが一気に醒めたのが分かった。 彼が何で急に俺の前に姿を現したかは分からないが、恐らくうみのイルカに関する事だろうと言うのは判った。思わず生唾を飲み込んで、目の前の姿を見つめる。

 それは傍から見たらさぞかし滑稽な光景だったろう。
 まるで合わせ鏡の様にそっくりな二人が睨みあっている。

 ただ一つ異なっているのは、片方には写輪眼と呼ばれる紅く光る眼が嵌め込まれているだけだ。
 俺が影となってから今まで決して合う事の無かった視線が絡み合い、噂にだけ聞いていた写輪眼は、その文様の奥に射抜くような激情を燃やしながら射抜くように俺の事を見ていた。
 俺達は無言のまましばらくの間睨みあっていたが、その時、宵闇の鋭い位の冷たさを持つ風が、勢いよく二人の間を吹き抜けていった。  
 二人の間を風に乗った木の葉が音を立て、クルクルと舞い踊って行ったその時、カカシはようやく口を開いた。

「お前は・・・イルカ先生に必要以上に近付くな」

 やはりその事か・・・と思ったが、上からモノを言うその態度と、すでにイルカが自分のモノであるかのような態度が気に食わず、素直にカカシの言う事を聞く気にはなれなかった。

「ハッ、任務はどうしたのよ?随分と早い帰還だけど、ちゃんと終わらせてきたの?」
「・・・いいから、お前はあの人には近づくな」
「何をそんなムキになってるの?そんなに大事なら首に縄でもつけて、どこかにでも監禁でもすればいいんじゃない」
「・・・出来る事ならそうしている!」

 それまでは淡々と話していたカカシだったが、俺の挑発的な言葉に苛ついたのか、いきなり勢いよく喋り出した。

「お前は今まで通り俺の影として過ごせば良い。遊びたいのなら花街で好きなだけ遊び女でも買っていればいいだろう」
「写輪眼のカカシともあろう人があんな中忍に入れ込んで。どこがそんなに良いのかねえ?」
「良いか、あの人に余計な事をするなら上層部に後で何を言われようがお前の事を始末する」
「ふうん。でもね、俺もちょっと興味があるんだよね。あの人ね、何でかわからないけど、俺とカカシの区別がつくみたいだよ。そんな人は初めてだよね」

 俺の思いもかけない言葉に驚いたらしいカカシは、眼を見開いた。

「どこにでもいる様な中忍だけどさ。まあそれなりに良い所もあるんだろうし」
「・・・お前は、あの人の良さを知らなくて良い。俺だけが知っていればいい。名声なんて、噂だってあの人にとっては意味がないし通用もしない。あの人は『はたけカカシ』として俺を見てくれている。彼はやっと見つけたんだ。・・・俺の、俺だけの大事な人だ」
「じゃあ、アンタもせいぜい任務の時にはぶっ倒れない様に気を付けるんだね。アンタがいなければ俺が表に出るんだから」
「表に出ようが、何をしようが、所詮お前は俺の影だ!影は影らしくしていろ!」

 吐き捨てるようにそう言うと、カカシは素早くその身をひるがえして去って行った。
 暗い空に、闇に溶けていくその黒い姿が消えるまで見送った後、俺は思わず「今の俺から見れば、お前は影に見える」と小さく呟いた。

     *****

 カカシと俺が初めて接触したからと言って、それから何かが劇的に変わる訳では無かった。
 相変わらずカカシが闇に紛れるようにこっそりと任務に出た後は、俺は彼の代わりとして里でわざと目を引くような行動する。
 帰還後は上層部の元へ呼び出され、新たに傷を負った場合はその箇所と同じ場所に医療班が傷をつけ、その後任務の内容を頭の中に叩き込む。
 カカシの名が、こなした依頼の内容がさざ波の様に静かに広がるにつれ、彼宛の依頼は又増えていく。任務が増えるにつれ帰還後入院する回数も増し、俺が表舞台に立つことが多くなり、同時にうみのイルカと接触する回数も増えていく。
 カカシとしてうずまきナルトのいる七班を請け負っている以上、彼との接触は避けられない。

『いいか、あの人に必要以上に近付くな。お前は今まで通り俺の影として花街で遊んでいればいいだろう。あの人に余計な事をするなら上層部に後で何を言われようがお前の事を始末する。あの人はやっと見つけた俺だけの大事な人なんだ』

 イルカに接するたびに、あの時のはたけカカシの声が警鐘の様に頭の中に鳴り響く。あれ以来 俺はうみのイルカとは最低限しか接してはいけない。
 今まで接しようとしていなかった俺の前に、初めて姿を現すくらいに、うみのイルカに対するカカシの気持ちは強いのだろう。
 恐らく俺がうみのイルカに対して何か手出しをすれば、カカシは躊躇なく俺の事を始末するだろう。

 俺だって勿論自分の命は惜しいし、今の生活を捨てるつもりは毛頭無い。
 任務の報告書は七班の生徒達に頼み、イルカの元へと行く必要はない筈だ。 だけれども俺は、あの時イルカが俺に見せた笑顔がどうしても忘れられなかった。
 少なくともあの笑顔は『いつものカカシ』にではなく『ちょっと違うカカシ』である俺に向けられたものだった。 直接話をする事が出来なくても、何となくだけれども彼の顔が見たい。そうして俺はあの時のカカシの言葉を思い出しながらも、ついつい七班と共に受付へと向かってしまう。

 そうして俺は、カカシとして受けた個人的な任務の時は、遠くでイルカの事を見るにとどめて、その代りに七班との任務の後は、わざとナルトを煽り、騒がせて自分の隠れ蓑にしながら、ただ彼の事を見ていた。

 カカシの任務は一時期は予想外に増えたが、その後は波が引いたかのようにぱったりと無くなった。そうして俺は、又影として過ごす日々に戻って行った。
 少し落ち着いた頃から、カカシはまたイルカの事を誘い、時折食事や飲みに行くようになった。 カカシに対する態度に時折堅苦しさが残っていたイルカも、同じ時を過ごすごとにどんどんと雰囲気も柔らかくなっていき、自分からカカシに声を掛けて食事に誘う事も増えていった。

 そんなある日の事、前々から派手な任務をしたいと騒いでいたナルトの願いがかなったのか、カカシと七班はある護衛任務を引き受け波の国へと行く事になった。 カカシ達が出立した後は帰還までは日数がかかる事もあって、ここぞとばかりに上層部から暗殺関係や、遠方の盗賊の撲滅など顔が出ない上に金が入りやすい依頼を次々に入れられた。
 難しい任務ではないが久しぶりに血にまみれる仕事が多く、人の命を奪う事に関して今更何の感傷もないつもりだった俺でも、終わった後にどこか空しいような寒さを感じた。
 任務完了の報告をした後、暗闇に紛れて帰る途中で俺は明かりのついている窓を見つけた。何となく光に吸い寄せられるようにふらふらと近寄り中を覗くとその光の中にはイルカがいた。
 書類の整理をしているのか採点をしているのかは分からなかったが、何やら難しい顔をしていたかと思うと、パッと笑顔になり、かと思えば何事か一人で頷きながら、一生懸命ペンを走らせている姿を見ながら、ぼんやりと考える。
 今までカカシとして生きてきた中で、色々な思惑を持って近づいてくる人間は多数いたが、こんな人は見た事が無い。
 何でイルカには俺とカカシの区別がついたのだろう?いつかそれを聞いてみたいと思った瞬間に、あの時のカカシの言葉が胸を横切る。
 俺がイルカとゆっくり話が出来る、そんな機会はあるのだろうか。 暗闇の中から見ているからか、イルカの事が眩しく見え、何処か暖かそうにも感じる。
 彼をじっと見ていると、どこか心がほんのりと温かくなり、先程まで感じていた寒さが段々と和らいでいくように感じた。
 早くこの場から立ち去らなければいけないと、頭の中では分かってるのに体が動かない。

 イルカの姿をじっと見ていた俺は、彼に惹かれたカカシの気持ちが少しだけわかったと同時に、自分の中にある淡い思いに気付いてしまった。
 だが、これに名前を付けてはいけない。
 ボンヤリとしたまだ形のないこの想いは見ない振りをして、そのまま心の奥底に沈めなければいけない。

 きっとこの想いに名を付けたその時、俺はきっとカカシに亡き者にされるであろう。
 結局俺は、立ち去る事が出来ずに、イルカの事を影からただずっとぼんやりと眺めていた・・・。


     *****

 当初の予定よりも大幅に遅れ、波の国からカカシ達が帰国した直後は、帰国前に詳しい報告を受けていたとはいえ、里内はちょっとした騒ぎになった。
 念の為にとカカシは検査入院することとなったが、今回の事はかなりの噂になっている為、俺が代わりに表に出る事にはならなかった。そうしてそんな時に限って暗部がらみの任務もなく、上からは暇ならば入院中の行動を観察する様にと言われ、俺は少し離れた木の上からカカシの事を見ていた。
 病室には特に来訪者もなく、カカシは時折検査で呼び出されてる時以外は、ただじっと本を読んで過ごしていた。 ただ本を読んでいるカカシを見ているのにもいい加減に飽きた頃、軽いノックの音がした。
 カカシの「どうぞ」と言う返事とほぼ同時にドアが開くと「失礼します」と誰かが一礼しながら病室に入ってきた。

「イルカ先生!どうしたんですか⁈」

 その姿を見たカカシは珍しく小さく叫び、少し怒ったような顔をしたイルカが病室の中に入ってきた。

「どうしたんですかって。俺が入院中のカカシさんのお見舞いに来ちゃいけませんか?」
「いえ、そんな事はありません。でもただの検査入院で、そんな大した事はないんです」
「でも入院は入院じゃないですか」

 そのままイルカはベッドの傍らにある椅子に腰かけると、何も言わずにカカシの事をじっと見ていた。

「あの、イルカ先生。ひょっとして俺の入院中に七班の奴らに何かあったんでしょうか?」

 イルカからの視線と重苦しい沈黙に耐えかねたらしいカカシが、少し俯きながら小さな声で話すと、イルカは珍しく少し怒ったように答えた。

「あいつらはいつも通り元気でやっています。さっき報告書を出しに来ましたが、キチンと任務もこなしていましたし、特に問題はありませんでした」
「そうですか、それは良かったです」

 又イルカは黙ってしまった。カカシはイルカの方を見ようとせず、少しの間視線を泳がせていたが、キッとイルカの顔を見つめ話しだした。

「あの、今回はすいませんでした」
「・・・何がですか?」
「波の国での事です。アイツらの事をきちんと守るって約束したのに、危ない目に合わせて、怪我までさせてしまって」
「そうですね。話には聞いてましたが、さっき報告書を出しに来た時に改めて話を聞いてびっくりしました」
「そうですよね。本当にすいませんでした」
「心配しましたが、元気そうで安心しました」
「ええ、任務に出れる位ならだいじょうぶですよね」
「・・・誰がナルト達の心配をしていると言いましたか?」
「え、でもそれ以外に何があるんですか?」

 イルカの言葉に、きょとんとした表情を浮かべるカカシ。

「・・・俺がアンタの心配をしちゃいけないんですか?!アイツらから詳しい話を聞いてどれだけ吃驚したと思っているんですか?カカシさん少しは自分の事も考えてください!」

 軽くキレたらしいイルカは勢いよく立ち上がった。反動で椅子が後ろに倒れたのも気にせずに、そのままカカシの首元を掴んで叫び続けた。

「俺はね、カカシさんがいつも誘ってくれて飲みに行ったりして、少しは仲良くなったと、友達だと思ってたんですよ。友達が怪我をして治ったとはいえ入院していたら心配するじゃないですか」

 イルカの言葉に一瞬驚いた表情を浮かべたカカシだが、又すぐに真顔になってイルカに話しかけた。

「俺は・・・イルカ先生の事を友達だと思った事は、最初から一度もありません」

 キッパリとそう答えたカカシの言葉に驚いたイルカは、目を見開き彼の顔を見つめていたが、やがてゆっくりと視線を落として行った。

「そう・・・だったんですか。あ、勝手に友達になったとか勘違いしていてすいませんでした。そうですよね、カカシさんみたいな高名な方が俺なんかと友人とか、おこがましいにも程がありましたね」

 イルカは動揺しているのを誤魔化すかのようにカカシの顔から視線を逸らしたまま早口でしゃべり続け、カカシは俯いたイルカの話をじっと聞いていた。それを影見ていた俺は、良く出来ている芝居を見ている気分でそれを見ていた。だって今目の前で繰り広げられている茶番のその最後の結果は判り切っているのだから。

 ああ、可哀そうなカカシ。
折角の初めて出来た想い人から友人としてだとしても好意を向けられ手を差し伸べられたのに、お前はその手を拒否するんだろう。
 今までだってそうだったんだ。俺の知っているはたけカカシの人生のシナリオはどんなことがあろうと変わる事は無い。

「出過ぎた真似をしてすいませんでした。どうぞお大事に。その、今まで図々しく付き合っていてすみませんでした。これからは自分の立場をわきまえた付き合いをさせていただきます」

我に返ったらしいイルカは握りしめていたカカシの首元をゆっくりと離した。慌てて一礼すると踵を返しその場から立ち去ろうとしたが、その腕をカカシに掴まれ引き止められた。

「イルカ先生、一つ聞かせてください」

 引き止められると思っていなかったイルカは目を見張っていたが、彼の真剣な顔と声色に驚いたのか扉の方に向かいかけていた体をカカシの方へと向けた。

「貴方は・・・写輪眼のカカシが倒れたから、心配して見舞いに来てくれたんでしょうか?」
「はあ?だからさっきからカカシさんは一体何を言っているんですか」

 イルカは呆れたような声で話を続けていく。

「俺は前から思っていたんですが、カカシさんは何をそんなに気にしているんですか?俺は、貴方が倒れたのを聞いて大丈夫なのかと思って見舞いに来たんです。写輪眼だろうが里の誉だろうが、そんな事は関係無く貴方が心配だから来たんです」

「イルカ先生・・・」

 その言葉を聞いたカカシは、掴んだままだったイルカの腕を自分の方へと引き寄せた。寝ている自分の上に勢いよく倒れ込んできたイルカをそのまま強く抱き寄せると耳元で囁いた。

「俺はやっぱりどうしても、貴方を友達だとは思えないんです」
「それはさっきも聞きましたし、わざわざ確認しなくてもわかってます。もう帰りますから、離してください」

 カカシの言葉を聞いたイルカは一瞬体を強張らせたが、すぐにカカシの腕から逃れようともがいていた。

「いえ、分かってないです。俺は・・・俺は貴方が好きなんです。貴方に対して抱いているのは友情じゃなくて愛情なんです」
「え・・・あの・・・その俺は男ですよ?」
「そんな事は判っています。男とかそんな事は関係ないんです。俺は貴方が『うみのイルカ』の事が好きなんです」

 彼はもがく事を止め、目を見開いたまま何も言わずにただじっとカカシの話を聞いていた。

「貴方がここに来てくれた時、俺がどれだけ嬉しかったと思いますか?友人として貴方が心配してくれるのは勿論嬉しいです。でも俺はそれ以上のモノを求めてしまうんです」
「カカシ・・・さん」
「気持ち悪いですか?でももう限界なんです。俺は貴方が好きなんです。貴方の事が欲しいんです」
「・・・」

 カカシの顔は俺から丁度見えなかったがその腕が、肩が、小刻みに震えているのが分かった。

「俺は・・・今までカカシさんをそう言う対象で見た事はありません」
「・・・分かってます」

「でも、俺はカカシさんとこのまま終わってしまうのは嫌です。出来る事ならもう少しあなたの事を知りたい。この気持ちがひょっとした恋に代わるのかもしれないですが、今は良く分かりません」
「それでもいいです。イルカ先生一つ聞かせてください。その・・・何でこの前、俺の様子が違うのが分かりましたか?」
「それは・・・指先に触った時に何でかわからないんですが、いつものカカシさんと違うって感じたんです。曖昧ですいません」

 少し眉根を寄せてそう告げたイルカの言葉に少し口の端を揚げるカカシ。

「・・・分かってくれてありがとう」

  そう言うなりカカシはイルカの唇に自分の唇を重ねる。
 いきなりの出来事に驚いて目を見張るイルカに向かって「好きになって貰えるおまじないです」と囁くとイルカは真っ赤になりながらカカシの事を叩いていた。
 俺は変わるはずがないシナリオの予想外の展開に驚きながら、ただ茫然と陰から二人の事を見つめていた。


     *****

 その後もカカシとイルカは食事をしたり、飲みに行ったりと友人の延長の様な交際を続けていたが、徐々にお互いの距離を縮めていた。 二人の距離が段々と近付いて来た丁度その頃から、カカシが裏の任務に出る事が急激に減り、その分俺に依頼が回る様になってきた。
 カカシが火影に頼み込んだのか、裏で手を回したのかは分からないが、それはまるで俺をイルカに近付けない様にするかのようだった。 カカシは飲んだ帰りなど人気の無い所ではおずおずと手を差し出し、イルカも戸惑いながらその手を取っていた。
 最初はカカシに触れることに対して緊張し、どこかぎこちなかったイルカも、少しずつ慣れてきたのか時折自分から手を差し出す様になってきた。
 そんな二人の姿を見ながら、俺がカカシの変わりにイルカの前に出たとしても、イルカは『いつもと少し様子が違うカカシ』である俺に向かって手を差し伸べてくれるのだろうかと思い浮かべては、その思いを心の奥底に沈めていった。


   *****


 その日、珍しくカカシは朝早くから任務に出ていた。俺と対峙してからカカシは出来るだけ昼間の任務を受けず、可能な限り七班との任務の後に回して俺とイルカとを接触させないようにしていたが、それにも限度があったらしい。
 珍しく入れ替わったその日、ナルトは妙に機嫌が良く、聞かなくても俺に向かって上機嫌で話し出した。

「昨日聞いたんだけどさ。今日はさ、イルカ先生も仕事だって言ってたってばよ」
「ふーん、そうなの」

 休日だからきっと朝から夕方まで受付だろうと思い少し浮かれ気味に子供達と一緒に報告書を出しに行く。きょろきょろと辺りを見回すが、期待していた人影はどこにも見られなかった。
ナルトも同じことを考えていたようで「あれ、イルカ先生は。今日仕事だって聞いたけど、受付じゃないの?」と呟いている。報告書を出し手続きを済ませていると、まだ何やらブツブツ言っているナルトに向かってサクラが話し出した。

「イルカ先生なら今日は昼からアカデミー勤務よ。私が朝依頼書を取り行こうとして会った時に聞いたら、週明けに演習場を使うから簡単なトラップを仕掛けるんだって言っていたわ」
「何だ、先生の仕事が終わったら一楽で奢って貰おうと思っていたのに」

 しょげた声を出すナルトに向かってサスケが鼻で笑って見せた後に「自分に都合が良い事ばかり考えている暇があったら、少しは修行したらどうだ。このうすらトンカチが」と言い放ち、険悪なムードになりかけた所をサクラが何とか仲裁していた。

「ん~、お前達何やってんの?俺はこれから待機所に向かうけど、こんな所で遊んでいる暇があったら少しは修行してきな」

 イルカがいなければ子供達には用は無いと思い、受付から追い出しながら、窓の外に広がる演習場を少しだけ眺めた。
 その後、待機所でしつこいくの一に纏わりつかれ資料室に隠れていた俺だったが、いい加減ほとぼりも冷めただろうと帰ろうとすると、演習所の見回りを終えて受付に向かうイルカに出会い一礼される。緩やかに二人の関係が進んでも、イルカは仕事との境目をきちんと引いていた。

「お疲れ様です、カカシさん」
「お疲れ様ですイルカ先生」

 目を細め笑いながら俺の事を見るイルカ。そんな彼の姿に胸の奥からくすぶりあがる気持ちがある。

「ねえ、今日の俺はどっちだと思います?」

 冗談めかして思い切ってそう聞くと、イルカは少し困ったような顔で俺の事をしばらく見つめていたが、ゆっくりと口を開いた。

「多分ですが・・・いつもと違うカカシさん・・・」

 俺が何も言わずにいると、彼は俺に一歩近づき手を伸ばす。

「ちょっと良いですか?」

 そう言いながら指先に軽く触れてきた。
 苦い様な痺れる様な感覚が、彼がかすかに触れた指先からどんどんと広がって行き、鼻の奥がツンと痛くなる。彼が触れる前から俺の事を当てたと言うだけで、どこか泣きそうな気分になる。
 
 もしカカシが何らかの事故でいなくなったら俺は『はたけカカシ』として表の世界に出れるんだろうか?
 もしそうなったら俺がカカシとなり、今こうして過ごしているように、イルカと一緒にそのまま過ごして行けるんだろうか?
 そんなありえない考えが頭の中をよぎって思わず苦笑いしそうになる。

「・・・カカシさん。何か心乱すような任務を承っていたんですか?」

 俺の表情を見て何か勘違いしたのか、イルカは少し心配そうな顔で聞いてきた。
 そんな彼の事をおもむろに抱きしめたいような衝動に駆られてしまう。
 奥底に沈めていた筈のぼんやりとした想いは色を変え、苦しい様な切ない様な色を付け、ついに心の奥底からどんどんと溢れだす。
 溢れだした想いに押されたかのように、気が付けば、体が、口が、自分でも気づかぬうちに勝手に動いていた。

「イルカ先生、マフラーがほどけかけていますね?ちょっと直しますね」

 さり気なく手を伸ばすと、彼はちょっと笑って「すいません」と言いながら直しやすい様にと軽く顎をあげてきた。
 先刻から背中に感じている何かに、俺は気付かない振りをしてマフラーを直すのではなく、そのまま彼の頬を両手でそっと柔らかく抑えた。驚いて目を見張り俺を見つめてくる彼に心の中で小さく(ごめんね)と謝った後、顔を近づけそのまま唇を重ねる。そのまま上手く呼吸が出来ないイルカが苦しそうにドンと俺の胸を叩いていたのを機に名残惜しかったがゆっくりと唇を離した。

「カ・・・カカシさん。いきなり何するんですか!」
「ん~良いじゃないですか。イルカ先生が可愛くて。急にキスしたくなったんですよ」
「だからって、こんな所で!生徒にでも見られたらどうするんですか?!」

 目元を紅く染めて大きく肩で息をするイルカに手を伸ばすと、彼はびくりと肩をすくめたが、俺が伸ばした手から逃げようとはしなかった。今度こそほどけかけていたマフラーを直してあげる。

「ここじゃなきゃいいんですか?」

 くすくすと笑ってそう問いかけると、彼は顔を真っ赤にして少し拗ねたような口ぶりで俺に話してきた。

「ねえカカシさん。俺そろそろ行かないと。演習場について報告書提出しなくちゃいけないんですよ」
「ああ、そうですね。引き止めてしまってすみませんでした」
「いいんです。俺も・・・その、カカシさんに会いたかったんですし。それじゃあまた明日」

 まだ少し赤い顔のままで、子供の様に笑いながら手を振ってくる彼に向かって俺も手を振りかえした。

「イルカ先生、それじゃあ気を付けて」

 俺は彼に向かって「また明日」という言葉を返せなかった。返したかったけど、返せないとわかっていた。
 イルカは少し離れた場所で立ち止まると、俺に向かって小さくお辞儀してみせた。もう一度手を振って見せると今度こそアカデミーに向かって小走りに駆けて行った。そんな彼の後姿がどんどんと小さくなっていくのを、俺は目に焼き付けるようにただじっと見つめていた。

 彼の姿が見えなくなり気配が感じられなくなると同時に、俺にだけに分かるようにずっと針のような細さで注がれ続けていた殺気が俺を包み込むようにブワリと広がった。 背筋が凍る様な殺気に包まれて、足元から段々と血の気が引いて行く。呼吸が浅く短くなり、背中を冷や汗が伝っていくのが分かる。

 少し離れた場所から冷ややかな声が響いてきた。

「・・・お前は一体、何をしているんだ」
「あれ、随分と早いご帰還ねえ」
「俺はこれ以上イルカ先生に近付くなと言ったはずだ。」

 大きく息を吸ったあと唾を飲み込むと、乾いて張り付いた気管を無理やり押し広げる痛みと共に唾が落ちていくのが分かり、何とか声を出すことが出来た。

「ん~アンタさ予定より早いけど、ちゃんと任務は済ませたの?」
「ふざけるな!」
「ふざけているのはアンタの方じゃないの?俺がいるのにのこのこ出てきてさ、万が一誰かに見られたらどうすんのよ」
「こんな所に今の時間帯誰も来やしないだろうが」
「でもアンタの言うこんな所にイルカは居たんだけどね。そのお蔭で俺はゆっくり話が出来て良かったよ」
「・・・お前、あの人に何をした!」
「・・・何をしたって、ずっと俺達の事見ていたんでしょ?人の背中にイルカに分からない様に殺気をぶつけてきてたくせに。良いよ、言ってあげるよ。俺はね、イルカが余りにも可愛いから頬を押さえてそのまま・・・」
「止めろ!」

 声が響くと同時にチチチと言う小さな音が聞こえてきて、それと同時に俺の足元に青白い閃光が走った。怒りのあまり狙いが狂ったのか牽制のためにワザと外したのかは分からないが、当った訳でも無いのにその威力の余波を受けに足元がよろめきそうになる。
 カカシの殺気に気圧されて足元から崩れ落ちそうになるが、なけなしのプライドで何とか足を踏ん張り、わざとらしく茶化してながら話しかける。

「彼は・・・あの人は俺のだ。やっと見つけて手に入れたんだ。彼は俺のだ」
「俺の?ハッ、一体何言ってんの?『写輪眼のカカシ』ともあろう人が、たかだか中忍一人の為に何をそんな馬鹿みたいに殺気振りまいているの?」
「お前は今までの様に花街で遊びまわって満足していればいいだろう。俺のあの人に遊び半分で手を出すな!」
「へえ、遊びじゃなかったら良いって事?俺もあの人の事結構気に入ってるんだよね。今までのアンタの人生みたく、イルカの事もアンタと俺で共有してればいいんじゃないの」
「あの人は・・・イルカ先生だけが俺とお前が違う人間だという事に気付いた。今までそんな人はいなかった。あの人にとって俺は写輪眼も元暗部も関係ない。あの人の前では、俺が俺のままでいられる。彼はそれを許してくれるんだ」
「さっきも気付いていたね。しかし何でわかるんだろうね。でも『はたけカカシ』であればいいのなら、俺でも良いって事だよね」
「ふざけるな!」

 閃光と共に足元に火花が散り、一瞬気がそれる。気づくと、少し離れた場所で殺気を放っていたカカシの気配がいつの間にか俺の後ろにあった。

 ・・・わかっていた事だけど、俺とカカシじゃ力の桁が違いすぎる。

 あれだけの名声を浴びるくらいだしそれなりの実力を持っているだろうとは考えてはいたが、力の差がここまであるとは思っていなかった。 流石は写輪眼のカカシと言うべきか、そんな事をチラリと思う。 
 後ろから、気配だけで人が殺せるんじゃないかと思うくらいの殺気をぶつけられていて、もはや息をするのも苦しい程だ。
 脂汗が止まらず額当ての中も口布の中も汗で気持ちが悪い。浅く短くしか呼吸が出来ず、段々と目の前が赤く染まりチカチカして来た。

 イルカに惹かれた時点で、気持ちを自覚した時点で覚悟はしていたが、多分俺はここで死ぬんだろう。

 ・・・ねえ、イルカ。
 俺がこのまま居なくなったとしても、貴方には分からないんだろうな?
 もし俺が写輪眼の影とならずに、俺のままだったら。
 もし俺があるがままの俺として貴方に会っていたとしたら、何かが変わっていたんだろうか?
 貴方はあの笑顔で、俺を俺として受け入れてくれてただろうか?
 暗部として影として生きてきた俺に『もしも』と言う言葉が無いのは判ってはいるけれど、どうしても考えずにはいられなかった。

 なんとか大きく息を一つ吐きながら目を閉じると、瞼の裏に浮かんだのはさっき見た、少し照れたようなイルカの笑顔だった。

「・・・イルカ」

 最後まで言葉に出来なかった想いをこめて彼の名を口にした途端、カカシは吐き捨てるように俺に向かって叫んできた。

「お前が・・・彼の名を軽々しく呼ぶな!俺の影の分際で!」
「さっきから俺がお前の、カカシの影だと言っているが、自分はどうなんだ?お前だって『写輪眼のカカシ』のと言う名に隠れた陰の様な存在だろうが!!」

 挑発的な俺のその一言で激高したのか、辺り一面に広がる殺気と共に、俺の首元に冷えた切っ先が当てられるのが分かった。

 俺がここではたけカカシに殺されたら、上層部はどんな反応を示すのだろう?
 折角手間暇かけて作り上げたのにと文句を言いながら、俺の死体を始末し、又暗部の中から時間をかけてはたけカカシの影武者を用意するのだろうか?
 だが恐らく・・・里が何人『はたけカカシ』の影武者を用意したとしても、きっと彼らも俺と同じ運命をたどる事になるだろう。

 はたけカカシとして過ごすなら、どうしても『うみのイルカ』と接触する事になる。
 これまで暗い中でねじ曲がったような人生を送ってきた俺達みたいな者にとって、あの人は余りにも真っ直ぐで眩し過ぎる存在だ。
 暗い中にいた者が、そこに差し込む一筋のわずかな光に焦がれ掴もう手を伸ばす様に、光のような彼に心惹かれ手を出してはいけないと思っても我慢できずに手を伸ばしてしまうだろう。

「貴方に出会えて本当に良かった。俺は・・・貴方が・・・うみのイルカの事が好きでした」
「だからお前が!イルカの名を軽々しく口にするなと言っているんだ!」

 震える唇で掠れた声で恋焦がれた人の名を呟いたとたん、鋭い咆哮にも似た叫びと共に、背後からどす黒い殺気が襲いかかってきた。 形がない筈なのに重苦しい塊に伸し掛かられ、もう立っている事も難しい。瞼の裏が赤から黒へと変わり意識が遠くなり周りから音が消えた。

  黒・・・ああ、俺が生きた影の色、人生の色だ。

 こんなカカシの影として生きた人生だったからこそ、最後に光の様に眩しいイルカと会えたのだから、そう悪いものでも無かったのかもしれない。
 でも俺は・・・出来る事ならカカシとしてではなく、俺自身としてイルカと出逢いたかった・・・。
 そんな事を考えながらまるで暗い渦に巻き込まれるかのように、俺の意識は闇の中に溶けて行った・・・。


     *****


 アカデミーでの仕事を終え、歩きながらふと空を見る。見上げた空の端は、まるで彼の目の色の様な群青色からラベンダー色、更には天空に向かって薄い水色へと色を変え、反対側の端はオレンジ色に染まり始めていた。
 いつの間にかチカチカと光る一番星も出ていて、いつの間にか緩やかに夜と昼が交代しようとしている。
 その空の濃い蒼を見ていると、カカシさんの事を思い出した。

「イルカ先生」

 どこかから小さく俺の事を呼ぶ声が聞こえた気がして、軽く首をめぐらせ辺りを見回す。良く見ると、少し離れた人気のない空き地の大きな木の陰にいるカカシさんの姿が見えた。
 彼は何処か眩しい物でも見るかのように、少し目を細めてただじっと俺の事を見つめている。

「カカシさん、どうかしたんですか?」

 俺が慌てて走り寄って尋ねると、彼は後頭部をガシガシと掻きなが困ったように話しだした。

「あーその、約束していないのにすいません。何か急にイルカ先生に会いたくなって・・・」
「会いたくなったって。ついさっき、会ったばかりじゃないですか」

 何気なくそう言ったとたん、さっき彼にいきなりキスされた時の事を思い出してしまった。 
 カカシさんとは今まで何度もキスしてきたが、少し様子のおかしい彼としたのは初めてで、何故かわからないけれど俺は思わずやましい様な複雑な気分になって思わず下を向いてしまう。

「・・・すみません。でも貴方に俺が会いたかったんです」

 何か吐き出すかのように言ったカカシさんの言葉に驚いて、思わず見上げると、どこか苦しげな表情で俺の事をじっと見ていた。
 その顔を見た瞬間何故だかわからないが、どこか胸の奥がぎゅうっと苦しくなってきた。
 ああ、俺はこの人が好きなんだ。今までどこか流される形で一緒に過ごしていたが、俺はちゃんとカカシさんが好きなんだ。

 思わずそっと手を伸ばし、さっきカカシさんが俺にしたように頬を軽く抑えると、彼は目を閉じてふっと小さく息を吐き出した。
 一体何時から待ってくれていたのか分からないが、その頬はまるで氷の様に冷え切っていた。
 俺の体温で徐々温まって行く頬に赤みがさしていくと同時に、彼のチャクラが手のひら越しにじんわりと俺に流れ込んできて、俺は良く知ったその気配に安堵した。

 ああ、良かった。これは俺が良く知るカカシさんだ。

 そう思いながら、軽く頬を押さえたまま彼の顔を覗きこんだ。 カカシさんはさっきの会った時のように、ごくたまに別人のような気配を薄らと漂わせている事がある。
 さり気なく他の奴にその事について聞いてみた事があるが『イルカの気のせいじゃないか?それかたまたま調子でも悪かったんだろう』と笑い飛ばされて終わってしまった。
 恐らく受付を通さないような薄暗い任務を受け気が高ぶり、変に気分が高揚しているからなのだろうか?と俺は勝手に想像している。
 ただ時折、どちらのカカシさんも俺の事を好きなんだろうか?と、当たり前だろうけれども、本当に同じ人なんだろうか?なんて変な事を考えてしまう事がある。

「カカシさん、さっきもどこか変でしたが、何かあったんですか?話が出来る事なら、俺で良ければ話を聞きますよ」
「・・・イルカ先生」

 俺の言葉を聞いたカカシさんは眉根を寄せ切なげに俺の名を呟いた。 そのまま頬に当てていた俺の手を外すと体をそっと引き寄せ、ゆっくりと抱きしめてきた。

「貴方の事は誰にも渡さない。もし誰かにの元に行ってしまうのならば、いっその事俺の手で・・・」

 俺の頭に当っているカカシさんの唇の動きで何かを話しているのは判ったが、微かに聞こえる程度で何か言っているかまでは聞き取れなかった。

「・・・カカシさん。今、何て言いました?良く聞こえなかったんですが」

 彼は俺の問いには答えようとはせず、ただゆるゆると背中を撫でている。その甘やかす様な手つきにどこかウットリとして気分になってきた俺は、自分の頬をカカシさんの首筋に甘えるように軽く擦りつけてみた。
 そんな俺の事をカカシさんは顔を離してじっと見つめてきた。

「ねえ、イルカ先生。キスしても良いですか?」
「え、あ・・・えっと・・・はい、どうぞ」

 カカシさんは片手で口布をおろし、そっと顔を近づけてきた。
 思わず子供の様にギュッと目を瞑ってしまった俺が可笑しかったのか、クスリと小さな笑い声が耳に届き、その後に口布で覆われていたせいかしっとりとした温かい唇が重ねられた。
 それだけで終わると思っていたが、一度唇を離した後、今度は何度も角度を変え、貪る様に唇を重ねられた。苦しくて思わず顔を離そうとすると片手で後頭部を押さえられて、もう片手で背中を引き寄せられた。息が苦しくてハッと口を軽く開くと今度はぬるりと舌が差し込まれる。
 差し込まれた舌は口の中をぬるぬると移動していく。快感を得ようとしているのではなく、まるでカカシさんの舌で 俺の口腔内全て拭い去ってしまおうとするかのように、全体を舐めなぞられていく。

 やっとお互いの唇が離れた時には、俺はまだうまく息が出来なくて浅く息を繰り返していた。
 そんな俺の事を見ながら、カカシさんは縋るような眼で、必死に俺に向かって囁いてきた。

「イルカ先生、お願いです。俺を、俺だけを好きでいてください」

 あれだけ高名で何でも持っているような人なのに、なんで俺なんかにこんなに必死になるのだろう?そんな疑問も湧くけれど、小さな子供の様に必死に俺に向かって差し出されるその手を、俺は拒むことは出来ない。

「カカシさん、俺もちゃんとあなたの事が好きです。その、友情じゃなくて、勿論恋愛感情としてです」
「イルカ先生・・・」
「勿論本当です。あの、あまり言葉とか態度に出すのが苦手なんで、不安にさせていたらすいません。」
「本当ですか?」
「勿論です。俺は他の誰かじゃなくて、今ここにいるカカシさんの事が好きなんです」

 
 今まで口に出すのが恥ずかしかった言葉を俺も彼に向かってようやく差し出すことが出来た
 俺の言葉を最後まで聞いたとたん、カカシさんの顔が今までの不安そうな顔から一変した。 今まで見た事が無いようなその満足げな笑みは、どこか妖艶にも見え思わず見入ってしまう。
 カカシさんは後頭部に置いていた手を俺の背中にそっと下ろし、もう一度優しく抱きしめてきた。俺もおずおずと彼の背中に手を回し、少し甘えるように彼の肩に顔をうずめて額を押し当ててみた。
 カカシさんはそんな俺の耳元にそっと唇を寄せてきた。

「ねえ、イルカ先生。俺は貴方のモノで、貴方はずっと俺のモノなんですね」

 まるで歌うように優しげにあまやかに囁かれたその言葉に、少し照れながらも頷くと、俺を優しく抱きしめているカカシさんの腕が、何故かそのままゆっくりと力を籠めてきた。
 それはまるで俺の事を抱きしめると言うよりも、柔らかく拘束されているようだった。その腕の締め付けに少し苦しくなってきた俺は、思わず身じろいだが、その途端にカカシさんはぼそりと呟いた。

「・・・もう絶対に離しませんから」
 
 今までよりも少し低いその声の奥底に、どこかゾワリと背筋の凍るようなおぞましいようなものを感じてしまった。
 背筋を走る恐怖心に、思わずカカシさんを抱きしめている自分の腕をそっと解いて距離を取ろうとする。するとそれすらも許さぬかのように、抱きしめていた腕は更に俺の事を絞めつけてきて、苦しくなった俺は思わずうずめていた彼の肩から顔を上げた。


 顔を上げた俺のその目に飛び込んできたのは、今にも沈もうとしている夕陽だった。

 どろりとした、まるで血の様なその赤い色は、抱き合う俺達二人を真っ赤に染め上げていた。






<< 夢十夜番外編【こうふくや】 | ホーム | 表裏一体について >>


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP